緑色の微睡み

睡眠不足です

11月に観た映画

『恋人はアンバー』

レズビアンのアンバーとゲイのエディが高校卒業までお互いのセクシャリティを隠すために偽装カップルになる物語。

舞台となる1995年のアイルランドでは2年前に同性愛が違法ではなくなったくらいなので、そこの田舎町では現代ほど寛容ではない。この映画の良いところはその辺りの風当たりの強さをコミカルに描くことで観客に不快感を抱かせないようになっている。もちろん他人の恋愛に対して延々と干渉し続けるのは褒められたもんではないと思うが。

非常に快い作品であるが、結末に少し不満があった。

エディがゲイを告白するのとアンバーがレズビアンを告白するのでは置かれた環境が違うので、腹を括って軍隊に入ろうとしていたエディを別の道に行かせるのは違うような気がする。

それがエディにとって最善の道ではないとしても、腹を括った以上アンバーにはエディの決意を肯定してほしかった。

アンバーにだけは自らがゲイであることを告白できればエディは報われたんじゃないのかなって。

LGBTQに対してそんなに見識があるわけではないので読み違いをしている可能性はあるが、個人の好き嫌いの話をすれば、そこが目についた。

それ以外はアイルランドの田舎の美しい丘や心地良い音楽など基本的に高いクオリティで仕上げられていると思う。

 

ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』

主演のチャドウィック・ボーズマンが亡くなってしまったことで大幅に脚本の変更が行われた本作はまず、ティ・チャラが亡くなり、それとどう向き合うかという内的な葛藤で幕を開ける。

そしてブラックパンサーを失ったワカンダに対して国際社会がどう反応するか、さらに新たな勢力であるタロカン帝国とその王ネイモアの出現。

シュリのオリジンストーリーとして見ればフェーズ4に入り少し低空飛行を続けていたMCUの中では出来の良かった方の映画であるように思えた。それ故に彼女がまだブラックパンサーとして完全ではないことが次作への伏線となりそう。

ここからアーマーウォーズに繋がったりするんだろうけどドラマの方はあんま面白くないから頑張って欲しいなって。あとヴァルさん長官なんすね。

 

『ザリガニの鳴くところ』

街で暮らす裕福で将来有望な青年の死体が発見され、湿地帯で暮らす少女が殺人容疑で逮捕されるシーンで幕を開けるミステリー。

一見関わりの無さそうな二人がいかなる関係を持っていて、どうして青年が死に至ったか。

裁判が始まるなか、少女は幼少期を回想する。

 

トリック主体の日本の新本格的なミステリーではなく、登場人物の精神面を描いたドラマが中心。

基本的には優秀な自然観察者である主人公カイアが湿地でいかに生き残るか、それがストーリーの軸になってくる。その上でカイアは生物たちの生存戦略を学び、模倣する。

この作品はカイアの回想が中心ではあるが、カイアの語りは信用出来ない語り手であるため、観客はカイアの語る言葉に注意して物語を読み進めなければならない。

批評的に結構失敗してるらしいけど、個人的には非常に良質なドラマであったように感じられたのは原作未読のためか。

 

『すずめの戸締り』

新海誠は『君の名は』で一気にメジャーな存在になったが今回の作品で一皮剥けたのではないか、と思った。

新海誠作品は『君の名は』以前は核たるテーマがなく、浅く感傷的な作品が多かった。しかしながら美しい色彩の映像と音楽との調和において飛び抜けたセンスを発揮しており、それ故に熱心なファンを持っていた。かく言う自分もその一人である。

しかし『君の名は』以降新海誠は急激に変化した。その背景には3.11の影響が非常に強いのではないだろうか。

『君の名は』で災害における死を描き、『天気の子』で災害に負けない人の強かさを描いたのち、今回描かれたのは災害に遭った人への癒やしであるように思えた。

『すずめの戸締り』では死や喪失と関連付けられた3.11が通奏低音として存在しており、物語が進行するにつれてすずめはそれと向き合わなければならなくなる。

そして同時に物語の背景には冥界探訪が存在する。すずめの「岩戸」という苗字を見ればなんとなくそれを察するが、常世・現世という単語が使われる通り、この物語は基本的に日本神話が設定のベースとして存在するようだ。

もともと新海誠は『星を追う子ども』で地下世界を探検する物語を描いている。今回の『すずめの戸締り』は批評的にも興行的にも失敗した『星を追う子ども』のテーマの再挑戦であるように感じられた。

個人的に今年ベスト級の作品だったのでIMAXで見れたのは幸運だった。