緑色の微睡み

睡眠不足です

1月に読んだ本

枯木灘

中上健次の竹原秋幸三部作の第二作目。最初の『岬』は未読のまま読み始めたのだが、繰り返されるエピソードの羅列を読めば何が起きているのかが分かった。

巻末の解説を読むとこの作品において重要なのは「反復」と「関係」なのだそうだ。確かにこの作品では同じエピソードが繰り返し語られたり、家族や血筋といった要素を強調される。

それらを鑑みて読んだものを振り返って見ると、この小説は事象としての枯古灘の周辺地域全体を描写のではないのだろうか、と思えてきた。

そういった事象を描いているので一見無駄に見える同じエピソードの反復が行われたり、似たような関係がいくつも存在したりする。それをしなければ枯古灘という事象が文章の背後から立ち上ってくることはなかったのではないのだろうか。

 

『爆弾』

呉勝浩という作家については恥ずかしながら知らなかったが、今作はミステリーの界隈では話題の一冊なのだそうだ。

東京中に爆弾を仕掛けたスズキタゴサクと名乗る奇妙な男と警察による頭脳戦を描いた今作は、「羊たちの沈黙」のレクター博士や「ユージュアルサスペクツ」のカイザーソゼが語るシーンを連想した。

この小説のメインたる類家とスズキの対決についてかなり楽しめたし、多方面に展開される人間たちの描写を見ると、この呉勝浩という作家はかなり筆力が高いのだろうな、ということが想像できる。これだけ様々な人間の感情の根っこを描き、それをストーリーに織り込むことはなかなかできるもんではないと思う。

しかしながら、通勤中に途切れ途切れに読んでいたせいか、思ったより作品にのめり込むことができなかった。それが残念。

 

『裏世界ピクニック(8) 共犯者の終わり』

世界で最も親密な関係である「共犯者」である空魚と鳥子。その関係性のさらなる向こう側へ踏み出したい鳥子が空魚に「好き」という感情を伝えるところから始まる。空魚は鳥子との関係性を考え直すというのが今回のお話。

怪異メインではなく二人の関係性についての話がメインである。空魚は二人の関係性を見直すために登場人物たちに相談に向かう。その際に新しい登場人物が登場して「裏世界」という世界の在り方について新しい形が提示されたり、わりと設定の深層に触れているんではないのかなぁと思った。

空魚が自分たちの関係性を見直すために様々な登場人物たちに相談するのは『あの娘にキスと白百合を』の最終巻を連想させた。そのせいか、物語が佳境に入っているように思える。

次巻あたりでプロットが物語の終わりを方向性を示し、最後の難敵が現れるのではないのだろうか。次巻を心して待ちたい。