5月に見た映画
『聖地には蜘蛛が巣を張る』
イスラム教シーア派の指導者エマーム・レザーの霊廟がある聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件を描いたサスペンス。
この映画はマシュハドで実際に起きた殺人事件をモチーフに作られたもので、作中で語られる異様な価値観はフィクションではなく実際にあるものだと考えられる。
作中に登場する殺人鬼は聖地に巣食う蜘蛛である娼婦を殺すことで聖地を浄化していると語る。
しかしこの映画は冒頭で、ある娼婦の生活を描くことで彼女が聖地の穢れではなく、一人の人間であり社会的な弱者である事を克明に映し出している。
そうした弱者を殺す殺人鬼に対して多くの人が「よくやった」と支持の声を上げ、彼は無罪であるというデモすら起きる。
この様子は日本に住む我々からすると異様なものに見えるが、社会的に追い詰められた弱者を攻撃する光景は日本でも見られる。他人事だと考えないほうが良いかもしれない。
この殺人鬼が行う「浄化」という名目はハンナ・アレントがエルサレムで傍聴したアイヒマン裁判についての記録で語られた「凡庸な悪」という言葉を思い出した。(あまり詳しくはないので解説は出来ないが)
行き詰まった全体主義的な社会ではこうした殺人が起こりうるのかもしれない。そうした一方的な正義感を持つ「凡庸な悪」はどんな社会からでも出現しうるのかもしれない。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』
最後の物語はロケットの出生譚について語られながらガーディアンズと様々なクリーチャーを生み出すハイ・エボリューショナリーとの戦いを描く。
小気味の良いノリノリの音楽とすっとぼけた台詞の掛け合い、ややグロテスクなバイオレンス。全てがこれまで描いてきたガーディアンズ三部作の物語がここで終わってしまうのは物悲しくはあるが、ジェームズ・ガンきはDCの再編という大きな仕事があるので頑張ってもらいたい。
個人的にはそっち方面でも大きく期待している。(スナイダーカットの続編であるジャスティス・リーグ2を作って欲しいけどね)
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
ブルックリンのダサい配管工のマリオが偶然キノコ王国に迷い込み、訪れた危機を救う物語。
ルイージやピーチの物語上の立ち位置について語られるが、物語はちょっとびっくりするようなストレートな内容。
個人的にマリオはいくつかゲームをプレイした程度で、そこまで深い思い入れはないが、あるアイテムを手に入れた際に流れる音楽かかった瞬間、少し泣きそうになってしまった。
『クリード 過去の逆襲』
連綿と続いてきたロッキーシリーズの後継シリーズ。
イタリアの種馬ロッキー・バルボアから主人公をロッキーのライバルであり親友のアポロ・クリードの落胤であるアドニス・クリードへバトンタッチした本シリーズはロッキーからアドニスへ主人公を継承するところから始まり、2作目の『炎の宿敵』では父アポロを殺したドラコの息子との宿命の対決が描かれる。
また、『炎の宿敵』においてこれまでロッキーシリーズを牽引してきたシルヴェスター・スタローンが引退したことで、本作はロッキーシリーズの系譜を受け継ぎつつもロッキーではなく初めてアドニス・クリードというキャラクターが単独でメインを張るため、ある意味ではクリードシリーズのリブート第1作とも言える内容になっているかもしれない。
演出面が非常に優れており、ボクシングシーンを単に映しているだけではなく、それぞれの人物の心象風景を描く様はアニメ的で斬新とは言いがたいが、そこまで多用されていないため新鮮ではあった。
クリードシリーズの3作全てに言える事だが、ロッキーのように音楽面が優れていないので、戦いがそこまで盛り上がらないのが難点。
特に炎の宿敵ではサバイバーの楽曲をサンプリングして欲しかった。