緑色の微睡み

睡眠不足です

12月に読んだ本

『ユートロニカのこちら側』

俊英小川哲のデビュー作。

情報を収集されることにメリットがある社会に発展した近未来を描いたSF小説

現在のインターネットを経験していれば、この小説が描く社会がフィクションの世界ではなく、現在から地続きの世界であることが読み取れる。

このような社会の最終形は人が完全に無意識になった「ユートロニカ(永遠の静寂)」であるとされる。

SNSYouTubeを見ることで、自分の物欲が無意識に強化されているのでは?と最近思うことがあったので、知らない間に自分はユートロニカに足を一歩踏み入れていたのかも知れない。

 

『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』

人は語らずにはいられない生き物で、何を語るかと言うと物語を語る生き物。そして人は物語を消費することで集団としてまとまり、文明を成した。

しかし現代においてその物語が持つ効能はマイナス面で作用している。

例えばドナルド・トランプを神聖視するQアノンたちが語る陰謀論。四次元空間から現れた爬虫類人によって作られたディープステイトによりアメリカ合衆国は支配されている。この物語によって議会議事堂が襲撃される事件が起きた。

さらにナチスによるユダヤ人虐殺もシオン賢者の議定書という偽書によって語られた「ユダヤ人が世界を支配し、全ての民をユダヤ教に平伏させる」という物語によって起こされたとこの本は語る。

物語とは世界を把握するための手段の一つで、物語を介することで人は問題とその解決法を理解しやすくなるようだ。

物語では問題が発生し対立が起こり、それを主人公が乗り越えるものである。その際に重要なのはいかに主人公に共感させるか。そのためによく使われる構図は勧善懲悪で、物語は道徳的要素を語ることでより強い共感を得ることができる。

上記の二つの事件を引き起こした物語も醜悪なものに思える。しかし当事者になるとそれが反転する。ナチスやQアノンという正義の使者が真実を解き明かし、善が悪を罰するという構造が人に強く働く。それにより正義が暴走してしまう。

こうした物語が作用することで、人類は現実を上手く認識できず物語によって毒された現実を見るようになる。

そうならないために自分は今正しい現実を認識しているか?ということを疑うべき。ざっくりまとめるそういう本。