緑色の微睡み

睡眠不足です

6月に見た映画

『怪物』

冒頭のガールズバーの火事の遠景から、徐々に事件の中心へ進んでいく構成はかなり良くできたものだと思う。

安藤サクラの演じる母親の視点で描かれる学校の態度は異様に映る。機能不全を起こした学校というシステムや息子を教える教師が怪物のように描かれる。

視点が変わって、永山瑛太の演じる教師は優柔不断だがそれなりにちゃんとした教師のように見える。彼は自分の担当する児童が「先生から暴行や暴言を受けた」と身に覚えのない行為について証言をしたことによって学校から追放される。彼は不可解な言動を行った児童が怪物のように見える。

更に視点が変わって、主人公とも言える少年に視点が移る。ここで少年の目に映る世界は「普通」や「男らしい」という彼の中に根ざすものを否定する価値観で、それに抗うことで事件が起きる。

三つの視点で描かれる世界は歪であり、特に安藤サクラの視点で描かれる世界は過剰に演出されているように思える。

あの視点を見た後で永山瑛太の視点を見ると教師が同じ人物であるかのようには思えない。

これは映像で公平にそれぞれの人物の行動が映されているのではなく、それぞれの視点はそれぞれの人物の主観でそれぞれバイアスがかかったものを観客が見ているように思えた。

そうでなければあの結末に至るのは脚本の破綻としか言いようがない。

作品全体としては凝った作りで、俳優たちの演技や少年二人のビジュアルも良かった。

似たような映画として『僕のエリ』を連想した。

 

『リトルマーメイド』

冒頭のサメに追われる辺りはサメ映画として非常に出来が良いのではないかと思えた。

内容的にもリトルマーメイドあんま知らないので結構楽しめたが、あんまり評判は良くないらしい。

批判の一つにドレッドヘアにこだわったことに対するものがあったが、確かにアリエルはドレッドじゃない方が可愛いように思えた。

 

『ザ・フラッシュ』

結局なんも解決していないのはどうかなぁとは思えたがDCのビジュアルの良い俳優たちを見れたのが救いかなって。

あとDCEUがこれで終わると考えると物悲しくなった。

 

スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』

スパイダーバースの続編。

マイルズがプエルトリコ系の血を引いているのはウエストサイドストーリーなどで語られた移民たちの物語を背景にしていて、移民たちの作り上げたニューヨークを代表した親愛なる隣人が物語を語る上で重要なのでは、と思えた。

ストーリーや映像については前作をきちんと引き継いでいて満足。

 

ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』

クローネンバーグの往年名作。

ビデオやテレビという当時訳の分からなかったものを扱った作品。

serial experiments lainを連想したが、これも元ネタの一つか?

6月に読んだ本

『猫の街から世界を夢見る』

かつて旅人だった大学教授が教え子が若い男と共に出奔したことで、それが原因で自らの住む世界に危機を与えるため教え子を呼び戻すための旅に出る、という物語。

解説を読んだ感じ、ラヴクラフトの〈ドリームサイクル〉という作品群の短編『ウルタールの猫』と中編『未知なるカダスに夢を求めて』がベースになっているらしい。そうした作品が未読なのでラヴクラフトネタがよく分からなかった。

読んでいて受けた印象はとにかく風景の描写が多いわりに、使われる名詞に馴染みがないので何ついて言っているのか分からない部分が多く、作品の核に触れている気がしなかった。

 

屋根裏に誰かいるんですよ。 都市伝説の精神病理』

精神病の一つである幻の同居人と呼称される症状について書かれた本。

日常に潜む狂気についてなかなか面白く読むことが出来た。映画ジョーカーの続編で使われた副題のFolie a Deuxという症状も興味深かった。

 

自民党統一教会汚染 追跡3000日』

単純にルポルタージュって面白くないなぁって思った。

自民党統一教会の癒着の構造は面白かった。

 

 

5月に読んだ漫画

『ウスズミの果て』(1)

BLAME!』の弐瓶勉作品を連想させる超巨大構造物に覆われた世界で人類の生存者を探しその土地を浄化する少女の物語。

人類そのものの社会システムは機能していないが、人類を救出するシステムだけがほぼ壊滅した世界で機能し続ける様子は既視感があるといえばそうだが、こうしたジャンルそのものが好きなので、是非とも結末まで描いてほしいと思う。

 

『てのひら創世記』(1-5)

『魚の見る夢』『ひとりぼっちの地球侵略』の小川麻衣子の新作。

新世紀エヴァンゲリオン』とか『なるたる』が浄化されて綺麗になったみたいな印象。愛一郎の父親や千絵の母親といった布石の置き方と終盤の畳み方に一貫した考えがあるように思えないので打ち切られたのかな?と勘繰ってしまった。

この人の漫画のテンポはあだち充に似ていて非常に好みではある。

 

『天幕のジャードゥーガル』(1-2)

学者一家の預かり奴隷のシタラという少女がモンゴル帝国の襲撃により主人一家を失い、ファーティマと名乗り復讐を誓う物語。

1巻ではファーティマと名乗るまでと、ファーティマと名乗って以降のモンゴルで馴染み復讐心を忘れそうになるまでが描かれる。

2巻でふたたび復讐心を抱き、モンゴル帝国内部の政治情勢の変化に乗じたファーティマの復讐の始まりが描かれる。

ファーティマという女性についての歴史についてあまり知らないし、モンゴル帝国についても元寇で二度と日本へ攻めて来たこと以外あまり知らない。(ゴーストオブツシマはやってみたいなぁと思っています)なので新鮮で読んでいてとても楽しい。

 

城下町のダンデライオン』(7)

ダンディリオンの開催を争う対抗戦を描いた第三部の2冊目。相変わらずキャラクターは可愛いので読んでいて楽しい。

政治的な部分も多く描かれていたり、内容が少しずつ変質してきたように感じる。それが悪いわけではないと思うが。

 

『ぱのらま』(6)

鉄道旅行ものの6巻。

荷物の話とか旅先でしか行けない店がある話はよく分かる。

自分も旅先以外でスタバには行かない。自分がどこにも所属していない人間だという認識が生み出す自由さは旅行の醍醐味で、その認識のおかげで普段は行こうとは思わないオシャレな場所に行けたりもする。

たまに行く塚口サンサン劇場が登場していたのが嬉しかった。あそこは良い映画館です。

 

ジャンボマックス』(8)

徐々に状況が悪化していき、建男に決断が迫られるところで終わったので次巻をを早く読みたいと思う。

ただこの漫画って状況が目まぐるしく変わるので1巻ずつ読むより一気読みする方が楽しめるんじゃないのかな、とも思える。

完結してから一気に読みたい。

 

こみっくがーるず画集 あばばーさりー!』

画集に関してはこれまで描かれてきたこみっくがーるずたちのイラストが楽しめるが、それ以上に読みたかった『かおす先生のアトリエ探訪~きらら漫画の作り方~』が読めたのが嬉しかった。

 

『キミイロ少女 完全版』

『少女² 完全版』

どちらも『わたしの百合はお仕事です!』の未幡の短編集。

初期作品から『わた百合』の連載直前のものまでを網羅したもの。

個人的にこの短編集を2冊読むことで百合作品の短編漫画における限界を感じてしまった。

あるシチュエーションとそれに捻りを加えた展開が繰り返される。二つの短編集に集録されたものは総じて漫画としてクオリティが高いのだが、これが繰り返されると飽きてくる。同じ料理を様々な調味料を使って味変している感覚に近い。

おそらく、これが現状の百合というジャンルにおけるひとつの構造的な限界なのかもしれない。

 

『レ・セルバン』(1-2)

ベルセルク』のようなダークファンタジー

面白いのだが、そこまでエグくないし絶望感もない。そのため少し物足りなく感じる。

しかしながらこうした作品を描くにはかなりの力量が必要だし、それを続けるための機会も必要。

完結まで応援したい。

 

『邪神ちゃんドロップキック』(21)

いつも通りの邪神ちゃん。

ユキヲ先生の絵はとても好き。

 

『これを描いて死ね』(1-3)

漫画を描きたい少女たちの物語。

こういう創作に燃える人々を描いた物語は好みなので完結まで追いたい。

 

『月曜日のたわわ』(7)

前髪ちゃんの物語は進んでいるが、他はいくら登場人物が増えても物語として停滞している印象を受ける。

キャラクターは可愛いし、絵も良い。飽きてきたんだろうか。

 

『ブルーロック』(24)

イギリス戦後の幕間とそこで評価を上げた馬狼がいるイタリア戦の序盤まで。

ネオエゴイストリーグに入って主人公である潔のゴールがなかったのが、今回の最後で見られた。

カバーを飾る氷織の背景が語られるのでイタリア戦での活躍に期待したいところ。

ブルーロックは読みやすくて面白い。

 

『メダリスト』(1-8)

傑作。

自分はフィギュアスケートについて何も知らなかったし、なんなら少し偏見を抱いていた。

しかし、これほどまでに熱い漫画を読むとそうした感情が吹き飛ばされてしまう。そういう意味ではフィクションとは非常に強力な力を持っているなと思えてしまう。

『これを描いて死ね』でも思った事だが、才能が花開いていく様子を読むのはとても楽しい。

 

『ささやくように恋を歌う』(1-8)

百合漫画。

様々な登場人物の関係性を巧みに描いた作品。

ストーリー上でそうした関係を描くのも非常に上手いが、作画面の細かさが見ていてとても楽しい。百合というジャンルだけではなく、漫画として非常に完成度のではないのだろうか。

ただ、8巻まで読んでこれ以上ストーリー上の広がりが見えないので、これから先は終わりに向かっているのだなと思うと少し悲しく思える。

 

5月に読んだ本

『インヴェンション・オブ・サウンド

チャック・パラニュークの長編小説。

ハリウッドという虚構を舞台にダークウェブの児童ポルノサイトで誘拐された娘を探す父親とハリウッド随一の音響技師の女がある事件において交わる物語。

この小説ではあらゆるものが虚構に埋もれていて、現実そのものが虚構に取り込まれているような気がしてくる。

そうしたフィクションとしての要素はこれまで翻訳されてきたパラニューク作品との共通項を見出せるが、ファイトクラブやサバイバーのような切れ味の良い文章があまりないように思えた。

 

『あなたの魂に安らぎあれ』

神原長平の第一長編。

火星を舞台に地下に住む人間と地上でこの世の春を謳歌するアンドロイドの捩れた関係の社会を描く。

そこに宗教的なテーマや夢の中で見た過去の出来事に纏わる記憶がストーリーに絡んでくる。

一つの大きな事件を中心に動き、人間とアンドロイドがほとんど差がなく描かれたり、それがストーリー上に大きな展開を生んだりするが目新しさはなかった。

この文章は読み終わってから少し時間をおいて書いているが、この小説を読みながら奇妙な感覚を抱いた記憶がある。玉ねぎの鱗茎を一つずつ剥がしていくが中心には永遠に辿り着かないないような。この感覚はなんなのだろう。

5月に見た映画

『聖地には蜘蛛が巣を張る』

イスラムシーア派の指導者エマーム・レザーの霊廟がある聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件を描いたサスペンス。

この映画はマシュハドで実際に起きた殺人事件をモチーフに作られたもので、作中で語られる異様な価値観はフィクションではなく実際にあるものだと考えられる。

作中に登場する殺人鬼は聖地に巣食う蜘蛛である娼婦を殺すことで聖地を浄化していると語る。

しかしこの映画は冒頭で、ある娼婦の生活を描くことで彼女が聖地の穢れではなく、一人の人間であり社会的な弱者である事を克明に映し出している。

そうした弱者を殺す殺人鬼に対して多くの人が「よくやった」と支持の声を上げ、彼は無罪であるというデモすら起きる。

この様子は日本に住む我々からすると異様なものに見えるが、社会的に追い詰められた弱者を攻撃する光景は日本でも見られる。他人事だと考えないほうが良いかもしれない。

この殺人鬼が行う「浄化」という名目はハンナ・アレントエルサレムで傍聴したアイヒマン裁判についての記録で語られた「凡庸な悪」という言葉を思い出した。(あまり詳しくはないので解説は出来ないが)

行き詰まった全体主義的な社会ではこうした殺人が起こりうるのかもしれない。そうした一方的な正義感を持つ「凡庸な悪」はどんな社会からでも出現しうるのかもしれない。

 

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』

ジェームズ・ガン監督によるMCU映画最後の作品。

最後の物語はロケットの出生譚について語られながらガーディアンズと様々なクリーチャーを生み出すハイ・エボリューショナリーとの戦いを描く。

小気味の良いノリノリの音楽とすっとぼけた台詞の掛け合い、ややグロテスクなバイオレンス。全てがこれまで描いてきたガーディアンズ三部作の物語がここで終わってしまうのは物悲しくはあるが、ジェームズ・ガンきはDCの再編という大きな仕事があるので頑張ってもらいたい。

個人的にはそっち方面でも大きく期待している。(スナイダーカットの続編であるジャスティス・リーグ2を作って欲しいけどね)

 

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

ブルックリンのダサい配管工のマリオが偶然キノコ王国に迷い込み、訪れた危機を救う物語。

ルイージやピーチの物語上の立ち位置について語られるが、物語はちょっとびっくりするようなストレートな内容。

個人的にマリオはいくつかゲームをプレイした程度で、そこまで深い思い入れはないが、あるアイテムを手に入れた際に流れる音楽かかった瞬間、少し泣きそうになってしまった。

 

クリード 過去の逆襲』

連綿と続いてきたロッキーシリーズの後継シリーズ。

イタリアの種馬ロッキー・バルボアから主人公をロッキーのライバルであり親友のアポロ・クリード落胤であるアドニスクリードへバトンタッチした本シリーズはロッキーからアドニスへ主人公を継承するところから始まり、2作目の『炎の宿敵』では父アポロを殺したドラコの息子との宿命の対決が描かれる。

また、『炎の宿敵』においてこれまでロッキーシリーズを牽引してきたシルヴェスター・スタローンが引退したことで、本作はロッキーシリーズの系譜を受け継ぎつつもロッキーではなく初めてアドニスクリードというキャラクターが単独でメインを張るため、ある意味ではクリードシリーズのリブート第1作とも言える内容になっているかもしれない。

演出面が非常に優れており、ボクシングシーンを単に映しているだけではなく、それぞれの人物の心象風景を描く様はアニメ的で斬新とは言いがたいが、そこまで多用されていないため新鮮ではあった。

クリードシリーズの3作全てに言える事だが、ロッキーのように音楽面が優れていないので、戦いがそこまで盛り上がらないのが難点。

特に炎の宿敵ではサバイバーの楽曲をサンプリングして欲しかった。

4月に見た映画

『ノック 終末の訪問者』

休暇で山荘を訪れたゲイのカップルとその養子の娘の元に四人の男女が現れる。

彼らのリーダー格である巨漢レナードは「君たち家族のうち誰か一人が自ら命を差し出さねば世界が終わる」と語る。

レナードの言葉は真実なのか? 彼らの目的は?

ある種のヴィジョンを見たことで狂気とも言える行動に出る様子はスピルバーグの『未知との遭遇』を連想させる。それと山荘での出来事で世界の行く末が決定するのはタルコフスキーの『サクリファイス』か。

そこまでグロテスクでもなければ、びっくりさせるような演出があるわけでもない。独特の緊張感のあるスリラーで、ストーリーもわかりやすくまとめられている。

聖書との関連性において作中の何が対応するかをある程度知らないと楽しめないかもしれない。

 

『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』

何者にもなれないアウトローたちが誇りを取り戻すために戦う物語。

大元の世界感を構成するTRPGにおいて僕は多くを知らないのだが、本作のストーリーは非常に手堅く作られており、画面映えするアクションも多く非常に楽しめた。

 

『プリンセス・プリンシバル Clown Handler 第3章』

第二章の続き。

本格的に王宮の陰謀劇が幕を開けた感じで楽しかった。

 

AIR

マイケル・ジョーダンがナイキと契約するまでを描いた物語。

エアジョーダンというスニーカーの王のようなスニーカーについて多少の知識があるとお馴染みの内容が続くため、スニーカーヘッズはあまり楽しめないかも。ただ、その伝説が可視化され、映像となっている事に対して感動する人もいるかもしれない。

個人的にはその伝説が有名すぎるため、映画として楽しめなかった。脚本はよくできているように思えるけれど。

ダニー・ボイル監督の『スティーブ・ジョブズ』みたいな緊迫感があれば良かったかも。

 

テトリス』(配信:Apple TV)

任天堂から発売されたテトリスの販売権をめぐる物語。

テトリスが生まれたソ連やそれを取り巻く事情、アメリカのゲーム産業における企業間の駆け引き。

そうした要素を上手くまとめ上げ、ゲーム的なエフェクトを上手く活用した後半の逃亡劇はエンタテインメントとしてとても楽しい仕上がりになっていた。

一つだけ文句をつけるならApple TV独占配信だった事。