緑色の微睡み

睡眠不足です

3月に観た映画

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

この映画の特筆すべき点は混乱した状況を的確に纏めてエンタテインメントとしてる成立させたい部分にあるのではないかと思う。

正直なところ映像体験としてもSFとしても既視感がある。映画ではジャコ・ヴァン・ドルマル監督の『ミスター・ノーバディ』、ダーレン・アロノフスキー監督の『ファウンテン 永遠に続く愛』、小説では伴名練『滑らかな世界とその敵』。

自分が知っているだけでも似たような作品がこうやって上げられるが、伴名練の小説はさておき上記の映画2作品は正直作品として成功しているとは言いがたい。2作品とも映像体験としては素晴らしいが捉え所のない難解さを孕んでいるため、ストーリーと設定の理解が追いつかない側面がある。

しかし今作『エブエブ』はそうした難解さを鮮やかに振り払い、家族の映画としてまとめ上げる事でエンタテインメントとして成立させたのはなかなかの離れ技ではないかと思われる。

 

『フェイブルマンズ』

スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的作品。

サム・フェイブルマン少年が映画と出会い、映画を生業しようとするところまで描かれる本作だが、サムを中心として描きつつも家族の映画であるため少々焦点がぼやけているように感じられた。

とはいえさすがはスピルバーグ。3時間近い作品だが、不思議と画面から目を離すことができず気づくと映画が終わっていた。

これは面白い構図を彼から教えてもらった成果なのだろうか?

 

『逆転のトライアングル』

タイトルの通り力関係を描いた映画。

まずカールとヤヤというカップルの力関係が描かれる。ヤヤは気づかないうちにカールを操ることがあるらしい。それに気づいたカールは現在の関係を対等なものへと変化させる決意をする。

場面が豪華客船へと移るとセレブリティであるカールとヤヤ、その他の大富豪たちと清掃婦の使う側と使われる側の構造が描かれる。

さらに無人島へ場面が変わると火起こしや食糧確保に長けた清掃婦が力を得ることで関係性が変化し、カールを支配下に置いていたはずのヤヤが清掃婦に恋人を奪われることで力関係が逆転する。

作中においてその辺りの説明があまりされておらず、淡々と場面が移り変わるために何が起きているか映像だけを追っていると理解しにくい側面がある。

個人的にもあまりピンとこなかった。

 

コンペティション

高尚な舞台劇のベテラン俳優と世界的スター俳優と奇人の天才映画監督が映画を制作する話。

冒頭に大成功した実業家が登場し、自分の名を残すために映画作ってくれと天才監督に依頼するところから物語は幕を開ける。

この映画は過剰に誇張された人物達によって物が展開される。ベテラン俳優、スター俳優、天才監督。(それから実業家)

それぞれの役割のカリカチュアような人物によるぶつかり合いは見ていてそれなりに楽しいが、この映画をコメディとしたいのかアート作品にしたいのかがあまり伝わって来ず、笑えないし大したドラマが始まるわけでもないまま終わってしまった。

アントニオ・バンデラスの演技は素晴らしいと思えたが、これ作品としては微妙なんじゃないのかなあと思います。

 

『シャザム! 神々の怒り』

DC原作のスーパーヒーロー映画の第二作目。

前作でファミリーとなったビリー達だが、肝心のビリーは家族を束縛しているのではないか、自分は本当の家族ではないので家から出ていかなければならないのではないか、と不安を抱えている。

兄弟の一人のフレディは転校してきた少女アンと恋に落ちる。その他の兄弟達の中にも問題を抱えていてそれが溝を生んでいるように感じ、ビリーはリーダーとしての自信を喪失していく。

そんな中、神の娘を名乗る姉妹が魔術師の杖を手に入れ、人間界に進出しようとしていた。

この映画は神の娘であるヘスペラ、カリプソ、アンテアとシャザムたちの戦いを描いたものだが、兄弟や家族の繋がりとスーパーヒーローとしての戦いがどことなく噛み合っていない印象を受けた。

神の娘たちの対立とビリーたちの結束が対比され、それが終盤の戦いへ繋がっていく展開は綺麗だが、冒頭のビリーの内的な問題は大雑把に解決されたようにしか思えない。

 

 

『ブラックライト』

リーアム・ニーソン主演のアクション映画。

FBIの秘密捜査員が危険な状態に陥った場合救出するトラヴィスという男をリーアム・ニーソンが演じている。

ラヴィスは今まで行ってきた仕事のせいか、神経強迫症のような戸締りを異常に気にしたりする側面を持っている。

それ故に孫娘に危険に対して注意するように強く言いつけたり、娘の住む家に勝手に防犯カメラを設置したりして煙たがられている。

ラヴィスはそろそろ引退して孫娘と平穏に暮らしたいが、彼に後ろ暗い仕事を任せてきたFBI長官はそうさせる気はない。

ある時トラヴィスの知り合いの捜査員の一人が警官に対して暴行を事件を起こしてしまう。トラヴィスはその捜査員に自分と組みやり直そうと持ち掛けるが、捜査員は「自分は一線を超えてしまった」と言い逃亡。なんらかの証言を新聞記者に話そうとする。

簡単に言うと現行の政府が自分たちに不利な方へ働きかける人物を秘密捜査員を使って抹殺していた。善悪の葛藤で正義に目覚めたトラヴィスが友人であるFBIの長官を告発するという話なのだが、イマイチ面白くなくトラヴィスの葛藤自体もそこまで大したものに思えない。

脚本に問題があるのか、編集に問題があるのか分からないが、この映画をもっと良くするためのシーンが足りないし、余計なシーンも多いような気がする。

リーアム・ニーソン主演のアクション映画は『96時間』とか『ラン・オールナイト』とか『フライト・ゲーム』とか結構好きなのが多かったので残念だった。